東京高等裁判所 昭和27年(ナ)19号 判決
原告 加藤光市 外一名
被告 群馬県選挙管理委員会
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等の訴訟代理人は被告が昭和二十七年十月三十日になした「昭和二十七年九月三日山田義博を群馬県議会議員に当選人ときめたこと及びその告示の取消を求める旨の異議申立はこれを棄却する」との決定を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として
(一) 原告等は昭和二十六年四月三十日施行の群馬県議会議員選挙に際し同県群馬郡選挙区の選挙人であつたところ、訴外島田倭は右選挙区に於て右選挙に立候補し、次のとおりの結果を以て当選し同年五月二日その旨告示された。
得票数 候補者
当選 一〇八四七 島田倭
〃 九六六四 佐藤繁作
〃 六九二五 矢田滝治
〃 六三二三 浜名一雄
次点 五六九〇 山田義博
五四七九 吉田茂平
五四〇六 宮川豊一
四三八九 田村勘次
六六五 富沢実
三〇八 砂盃鶴蔵
(二) 然るにその後島田倭については昭和二十五年十月十六日公職選挙法第百四十二条及び第百四十三条第三号に違反した罪により同人を罰金五千円に処する旨の略式命令が確定していることが判明したので、昭和二十七年八月三十日群馬県議会議長から島田に対し地方自治法第百二十七条により失職する旨の通知がなされ、同年九月二日に被告は次点者山田義博を繰上げ当選人と決定しこれを告知した。原告等はこれに対し被告委員会に異議の申立をしたところ右異議は理由なきものとして同年十月三十日附をもつて棄却された。
(三) 然しながら、
(い) 公職選挙法第百十二条には「地方公共団体の議会の議員の欠員が当該議員の選挙の期日から三箇月以内に生じた場合」に繰上補充がなされるべきことと規定されてあるが、右は欠員が選挙の期日から三箇月以内に実際に生じたことの顕著なる場合を指称するものと解すべきところ、島田は選挙期日たる昭和二十六年四月三十日から起算して三箇月以内なる同年五月から七月迄実際に議員の職にあつたものであつて、右の場合に該当しないから、之に対し公職選挙法第百十二条を適用して島田が当然に失職したものとし、次点者たる山田義博を繰上げ当選させたことは誤である。
(ろ) 右選挙に際し島田倭に被選挙権のないことが分つていたならば、同人の得た一〇八四七票は他の候補者に投ぜられるべく、その場合必ずしも前記次点者たる山田義博が当選し得たものと限らないから、島田の失職に対する補充方法として山田を繰上げ当選人としたことは不当である。
(は) 昭和二十七年四月二十八日施行の大赦により公職選挙法違反の罪は赦免され島田に対する前記略式命令の告知はその効力を失い、又同人は右大赦により復権したものであつて、之等大赦の効力は、大赦により刑の言渡の効力を将来に向つてのみ失わしめる趣旨を明定した旧恩赦令第三条がこのような趣旨を有しない現行恩赦法第三条に改められたことに徴し遡及効を有するものと解すべきであり、従つて島田は右大赦により選挙当時に於て被選挙権を失つていなかつたこととなるから、同人に対し地方自治法第百二十七条を適用して之を失職させたことは不法である。
(に) 仮に大赦に遡及効がないとしても、被告委員会も、選挙人も、島田倭も、何れも選挙当時島田が被選挙権を有しないことを知らずして前記選挙を行つたのであるが、このような場合当選の告示後一年三箇月を経過した昭和二十七年八月三十日に至つて当選人島田を前記の原因により失職させるには当選の無効又は、取消の行政訴訟その他の訴訟的手続を経るべきであつて、之等の手続を経ずして当然島田が失職したものとし、次点者山田を繰上げ当選人としたことは民主主義の精神に反するものであつて違法である。
よつて、右決定は違法であるからその取消の裁判を求める為本訴に及んだ、と述べた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、
原告等の請求原因事実中(一)、(二)の各事実、並びに(三)の事実中昭和二十七年四月二十八日施行の大赦により公職選挙法違反の罪が赦免され、島田倭に対する原告主張の略式命令の告知はその効力を失つたことは認めるがその余の主張はこれを争う。島田倭の失職は公職選挙法違反の罪により被選挙権を喪失したことによつて当然に発生した効果である。このことは地方自治法第百二十七条の規定上明らかであつて、右効果発生の為に特別の認定処分を必要とするものではない。右に反する原告の主張は右規定の誤解に因るものである。
又恩赦法第三条所定の大赦の効力は将来に向つてのみその効力を生ずるものと解すべきであり、同法第十一条はこの当然の事理を明らかにした注意規定に外ならないから、島田の失職は大赦によつて救済されるものでなく、大赦により同人が被選挙権を失わなかつたものとする原告等の主張は失当である。
而して島田倭は議員就職の日である昭和二十六年五月二日失職したのであり、その原因は選挙期日後三箇月以内に生じたものというべきであるから、公職選挙法第百十二条により昭和二十七年九月二日選挙会を開いて次点者山田義博を繰上当選人と決定したことは適法であつて、原告等の本訴請求は失当である、と述べた。
三、理 由
原告等主張の(一)(二)及び(三)の事実中、昭和二十七年四月二十八日施行の大赦により公職選挙法違反の罪が赦免され、島田倭に対する原告等主張の略式命令の告知がその効力を失つたことは被告の争わないところである。
(い) 原告等は、公職選挙法第百十二条の繰上補充は「議員の欠員が選挙期日から三箇月以内に実際に生じたことの顕著なる場合」に行われるものと解すべきところ島田倭は選挙の期日たる昭和二十六年四月三十日から起算して三箇月以内たる同年五月から七月迄の間群馬県会議員の職にあつたのであるから右三箇月以内に議員の欠員が実際に生じたことが顕著であると言い難く、従つて、被告委員会が前記の公職選挙法違反の罪が確定しているということにより当然に島田が失職したものとし、公職選挙法第百十二条第一項により次点者たる山田義博を当選人と定めたことは失当である旨主張する。しかし繰上補充に関する右規定を原告等主張のように解釈することを要するとする法上の根拠なく、従つて、苟くも議員の欠員が同条に定める三箇月の期間内に生じたものと認められる場合においては、すべて次点者を当選人と定め繰上補充が行われるものといわなければならない。
前記のように、島田に対する右略式命令は昭和二十五年十月十六日に確定したのであるから、島田は右議員に当選する前既に同法第二百五十二条により同日から五年間その被選挙権を喪失したものであり、而して県会議員に当選した者がこのように同規定により選挙の期日前から被選挙権を有していない場合に於てはその者は議員就職と同時になんらの手続を経ずして当然に失職するものであることは地方自治法第百二十七条の規定の解釈上疑なきところであるから、島田の議員失職は同人が当選人と決定され、その旨の告示のあつた昭和二十六年五月二日において既に生じたものと言うべきである。従つて、島田の失職による議員の欠員は公職選挙法第百十二条第一項所定の選挙の期日から三箇月以内に生じた場合に該当すること明かであるから、被告委員会が同規定に基ずき右欠員の補充として次点者山田義博を当選人と定めて繰上補充をしたことはまことに正当である。島田が右三箇月の間事実上議員として在職していたことにより、右法条の適用が排除されるものと解すべき別段の根拠がないから、右主張は之を認容することができない。
(ろ) 原告等は選挙に際し島田に被選挙権のないことが分つていたならば、同人の得た一〇八四七票は他の候補者に投ぜらるべく、その場合次点者山田義博が当選し得るものと限らないから、島田の失職による議員の欠員に対する補充方法として山田を繰上げ当選人としたことは不当である旨主張するけれども、公職選挙法第百十二条第一項によれば、前記のように議員の欠員が選挙の期日から三箇月以内に生じた場合にその補充方法としては得票者の内当選人とならなかつた候補者の中から当選人を定めるべきこととなつており、この場合に当選人とならなかつた得票者の内で、その得票数の最も多い次点者を当選人と定めることは成るべく多くの民意を代表するものを選出することを目的とした選挙制度の精神に最もよく適つたものと言うべく、右と異なる見解に基ずき右の方法が失当であるとする原告等の右主張は、之を認容することができない。
(は) 原告等は昭和二十七年四月二十八日施行の大赦により前記略式命令の告知が効力を失つた結果、右選挙当時被選挙権を失つていなかつたこととなるから、同人に対し地方自治法第百二十七条を適用して失職させたことは失当である旨主張するけれども、公職選挙法第二百五十二条による被選挙権喪失も恩赦法第十一条にいわゆる既成の効果に外ならないのであつて、之に対し同条の適用を除外すべき何等の根拠をも見出すことができないから、右効果は大赦により何等の影響をも受けないものと解すべく、従つて右と異る見解に基ずく右主張も認容することができない。
(に) 原告等は又被告委員会も選挙人も島田倭も何れも選挙当時島田が被選挙権を有しないことを知らずして前記選挙を行つたのであり、このような場合に而も当選の告示後一年三箇月も経過した昭和二十七年八月三十日に至つて島田が被選挙権を有しないことを理由として失職させるには当選の無効又は取消の行政訴訟その他の訴訟的手続を経るべきであるのに、之等の手続を経ずして当然島田が失職したものとし次点者を繰上げ当選人と定めたことは民主主義の精神に反し違法である旨主張するけれども、右のような場合に特に原告等の主張の訴訟を経由することを要するものと定めたなんらの法規なく、かかる訴訟的手続の行われなかつたことは、もとより当然である、右主張も又失当として之を排斥する。
然らば以上(い)(ろ)(は)(に)の各主張に基ずく原告の請求は失当であるから之を棄却すべきものとし、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項、第九十五条を適用して主文の通り判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)